きみのそばに その3
ハードル走の時間にタイムを計測していると、A子の取り巻きのB子が来てこう言った。
「ねえ、ストップウォッチ動かなくなったんだけど、計測終わってたら交換してくれない?」
恵子は親切にもストップウォッチを貸してあげた。
すると、それを見ていたA子が周りのクラスメート達に聞こえる声で言った。
「みんな~、恵子さんストップウォッチ壊しちゃったみたいよ!」
恵子は反論した。「違う!交換したら壊れていたの!」
ユキちゃんも恵子を悪者扱いされたくなくて援護する。「そうだよ!恵子ちゃんは悪くない!B子さんが壊れたのを渡したのよ!」
すると、A子が不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「B子かわいそ~。それにユキちゃんだっけ?あんた体が弱いはずだよね。なんでいんの?あ、そっか~!嘘ついてたんだね。嘘つきの友達は嘘つきってことか。もう学校来んなよ!」
恵子の顔を申し訳なさそうに見たユキちゃんの唇が青く染まり、その場で倒れてしまった。
はめられた。
A子は恵子とユキちゃんの友情に嫉妬し、その友情をぶち壊すチャンスを半年間も狙っていた。なんて執念深いんだろう。
その後保健室に運ばれたユキちゃんは恵子の顔を見るとごめんなさいを繰り返すばかりで、翌日から学校に来なくなった。
恵子は悲しかった。他人の心を傷つけることで優越感に浸る人がいることが。いじめという歪んだ社会の闇を恨んだ。そして何も残せない自分に無力感を覚えた。
とうとう優しい恵子は学校に行く意味を無くした。
「そうか。恵子、つらかったな」
僕は恵子の側にいて、彼女のしゃくりあげる声を聞き続けた。