きみの側に その1
「ゲーテ様、太宰様、あなた方の心中お察しします。生きることは何故このようにつらいのか。悩みが多く、不甲斐ない自分が嫌になります。」
走り去った電車を見て溜め息をつく。
「平穏を求めれば忙しさに追われ、刺激を求めれば退屈さに襲われる。ああ、この息苦しさは何なのか。こんな人生ならいっそ虫に生まれたかった。」
踏み切りの音が鳴り、遠くに電車が見える。
「この世が舞台で我が魂の役割が演じることなら、こんな中途半端な演技が許されようか。我が肉体には飛び抜けた身体能力も無ければ人目を惹く容姿も与えられなかったではないか。」
電車が近づいてくる。
「迎えに来たか。もはやこの世に魂の安らげる場所は無い。せめて最後に生きる喜びを感じたかった。ああ、恵子に会いたい。」
電車が近くに迫ってきた。
「お兄ちゃん!」
ふと呼び止められた。
「恵子、どうしてここに?」
僕は今の独り言が聞かれていないことを祈りながら妹の答えを待つ。
「ごめんなさい。」
小さな声でそう言ったのが聞こえる。
「どうしたんだ?学校で何かあったのか。」
「わたしね、もう生きてるのがつらいよ。」
恵子の瞳を覗きこむと悲しみの色に染まっていた。
「そうか、お前もいじめられたか。ごめんな。お兄ちゃんに似ちゃったな。」
「うぅ、お兄ちゃん…」
恵子が目にいっぱい涙を溜めて僕の腕にしがみつく。僕は周りの視線から恵子を守るように駅のホームを離れた。